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プロとアマチュアの違いは何か…。 自分の仕事に誇りを持ち、より充実した生活を送るためのヒントが満載。きっと誰もが今からでも変われます!本当の「自分」を発見し、マンネリズムから脱出しよう。 1982年(昭和57年)から1984年(昭和59年)までに連載された、芸術生活社発行『自己表現』の「プロフェッショナル研究」を原文のままお届けします。

「自分と自分の仕事を卑下するのは止めようⅡ」プロフェッショナル研究 Chapter3-2

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偉大なプロが巨億の金を稼いだからといって、金を稼げる奴が偉大なプロだとは断じていえない。
タノキントリオが偉大だなんて、キミ、思う?

「坊ちゃん」の中で主人公の坊ちゃんが下宿のおばさんと話していて、教頭の赤シャツが、うらなり君の恋人であるマドンナを横取りしようとしていると聞き、腹を立てるくだりがある。ところがおばさんは、うらなり君も煮えきらぬ態度で、あれでは若い娘の心はつかめない、その点では教頭先生のほうが上などと言い出す。坊ちゃんは苛立って「どっちが悪い奴なんだ」とたずねると「学校の先生に悪い人なんかおらんぞな」という答。そこで「じゃおばさん、教頭とうらなり君ではどっちが偉い人なんだ」と重ねてたずねると、おばさんは「そりゃ、月給の多い方が偉い人だろうがな、もし」とやられ、だあーっとなるところである。
金をたくさんもうけたプロが偉大なプロだという考えは、言うならこのおばさんの答に相当する。
だが、本当にそう言い切って良いだろうか。
たとえば沢村栄治という投手がいた。現在プロ野球セ・リーグの最優秀投手に与えられる沢村賞(注1)の名前になっている日本野球界の伝説的な名投手である。
彼の月給と昨年の沢村賞投手西本聖(注2)の月給は全く問題にならない。物価の上昇を考えて沢村の月給を何百倍かしてみても、西本のほうがはるかに多いのだろう。
沢村は大リーグオールスターチームを、ゲーリックのホームラン一本に抑えた。西本が大リーグオールスターチームを相手に投げたら……。
そんな昔のことは比較にならないと言うなら、青木功(注3)と松田聖子ではどうだ。稼ぐ奴が偉大だというなら、松田聖子のほうが青木功の三倍も偉大ということになる。しかし青木は今では世界の青木、松田聖子の歌が世界中にヒットしたなんて聞いたことない。
競輪の中野(注4)は三年連続世界選手権をとり、今では世界一の選手だが、稼ぎのほうは近藤真彦のほうが倍ぐらいある。
日本の医師は所得番付の上位に並んでいるが、彼らの医師免許は外国では通用しない(注5)政治家もずいぶん稼ぐらしいが、世界で通用するのは一人もいない。大体英語で演説のできる政治家がいないし、たとえ英語はできても、原稿なしで、その場に適したスピーチとなるとまるでお手あげ。そこへ行くと商社の連中は、政治家連の半分も収入はないだろうが、世界中で活躍している。どっちがプロとして本物か、どっちが偉大か、勝敗は明白だ。
そんな、仕事が違うから比べるのはおかしいよ、という声が聞こえそうだ。
技能オリンピックというのがある。木工や電工や旋盤や、要するに現場作業員、職工さんの腕比べだ。これに出場する日本チームは毎回半分ぐらいの種目に金メダルをとってくる。銀や銅までいれるなら、ほとんど全種目だ。そこでだ。金メダルをとった日本代表と六位ぐらいに入賞したヨーロッパ諸国やアメリカの代表と、給料はどちらが高いかというと、大体外国の代表のほうが倍ちかくとっているという。
国が違えば事情も違うってのか。じゃ牧野コーチと中畑じゃどうだ。篠塚と原とじゃ原のほうが倍以上偉大なプロだってのか。
高校で受験指導の巧みだった先生が、学校をやめて予備校で教えることにしたら、収入が倍近くなったって話もあるが、するってえと、その人は突如倍ちかく偉大なプロになっちまったってえことになるが、この例はどうだ。
今シーズン、年俸六千何百万円かで契約した山本浩二(注6)は偉大なプロである。ほぼ同額の江夏豊(注7)も偉大なプロである。
だが、ここで忘れてならないのは、彼らが六千何百万円で契約したから偉大なのではなく、彼らが偉大なプロだから、六千何百万かの契約ができたのだ、ということである。
“Made a big money”が偉大なプロの条件というなら、田中角栄も佐藤孝行も偉大なプロってことになっちまう。
ほしくない赤ん坊を闇から闇へ流して高収入をあげ、リンカーン・コンチネンタルにのっている産婦人科の医師などは、偉大なうちの偉大なるプロと言わねばならぬことになる。

つづく

月刊『自己表現』1982年8月号から原文のまま

(注1)正しくはセ・パ両リーグの最優秀投手に与えられる
(注2)1980年代に活躍した巨人軍の投手
(注3)1980年に全米オープンで準優勝。83年に日本人初のPGAツアー優勝。
日本プロゴルフツアー永久シード保持者。日本ゴルフツアー機構(JGTO)会長
(注4)中野浩一。1977年から86年まで世界自転車選手権で10連勝。2006年春の紫綬褒章を競輪選手として初受章。現・公益法人JKA特別顧問
(注5)現在、そのままの形で通用するケースは極めて限られてはいるものの、皆無ではなくなっている
(注6)広島東洋カープで活躍した外野手、監督。日本プロ野球名球会理事長
(注7)1960年代後半から80年代前半にかけて活躍したプロ野球選手(投手)

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