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プロとアマチュアの違いは何か…。 自分の仕事に誇りを持ち、より充実した生活を送るためのヒントが満載。きっと誰もが今からでも変われます!本当の「自分」を発見し、マンネリズムから脱出しよう。 1982年(昭和57年)から1984年(昭和59年)までに連載された、芸術生活社発行『自己表現』の「プロフェッショナル研究」を原文のままお届けします。

「自分と自分の仕事を卑下するのは止めようⅢ」プロフェッショナル研究 Chapter3-3

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金のためなんかで仕事をしちゃいねえ! カッコよくタンカを切れる人の作品には、その人の誇りがにじみ出るとは思わないか。

もう五年ほど前になるが、あるシナリオ研究会に出席したとき、講師に鈴木清順氏(注1)がいて、「シナリオとは、それをもとにして映画をつくるものでありまして、映画になることを前提として書かれるものであります。従って、もし書いてもそれが映画にならないならば、それはシナリオではなく、シナリオのようなものと言わねばなりません」
と話した。そして、
「シナリオ作家というのは、他のものを書く作家と違って、書く作業のほかに、書いたものを映画にする作業、つまり製作者と交渉して、それを映画にする気にならせ、企画を立てさせて、重役会議を通過させる作業もせねばならない。それがなかなかむずかしい。それは一本の良い作品を書くよりも、もっとエネルギーを必要とする」
というような話をした。鈴木氏自身、そういう苦労を散々させられたらしく、自作の幾つかについて製作の合意をとりつけるまでのいきさつをいろいろ話してくれて面白かったが、鈴木氏のその話を聞きながら私が思ったことは、鈴木氏はシナリオ作家であり、映画監督であることに誇りを持っている。そして自分がせねばならぬことは何かを知っている、ということであった。
鈴木氏の次に演壇に立ったのは、ある若手シナリオ作家であったが、聴衆の一人が、
「もうそんなかっこうつけた話はやめて、自分は金のために書いているという一言を聞かせてくれ」
と質問したら、色をなして怒り、
「金のためになんか書いてないねえ。書かなきゃならないと思うことを書いてるんだ」
と答える一幕があった。
金をたくさん稼ぐ人が偉大なプロだとは言い切れないとしたら、偉大なプロ、偉大でなくともプロと言えるためには他の条件が必要である。
それはまず誇りである。自分がその仕事をするプロであることに対する誇り、愛着がなければならない。ペレは「もう一度生まれかわってもフットボール選手になりたい」と言ったそうだが、自分の仕事に対するこれほどまでの愛着は、自分がそうであることの誇りにつながり、自分がそうであり続けるために、せねばならぬことは何かをはっきりつかむこととなる。
アメリカ大リーグのホワイトソックスの選手が賭け屋の誘惑に負けて試合を投げた、いわゆるブラックソックス事件のとき、裁判所へ連行されるスター選手に、一人の少年ファンが、「うそだ、うそだよね。うそだと言って」
と泣きながら訴え、それがそのスターの心にいちばんこたえたという話があるが、誇りを失った人間はもはやプロではないのだ。
プロはまず、自らの誇りのために働く。その誇りの故に使命感がある。ビジネス世界に生きる我々は、決して金の亡者であってはならず、歯車の一つにすぎないと思ってもならない。働く者は皆、その仕事のプロであり、プロには誇りがなければならないのである。

月刊『自己表現』1982年8月号から原文のまま

(注1)2017年2月13日没。日本の映画監督、俳優。独特の映像表現が「清順美学」と呼ばれた

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