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プロとアマチュアの違いは何か…。 自分の仕事に誇りを持ち、より充実した生活を送るためのヒントが満載。きっと誰もが今からでも変われます!本当の「自分」を発見し、マンネリズムから脱出しよう。 1982年(昭和57年)から1984年(昭和59年)までに連載された、芸術生活社発行『自己表現』の「プロフェッショナル研究」を原文のままお届けします。

「高い理想を掲げる者が高い誇りを持ちうる②」プロフェッショナル研究 Chapter4-2

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盗塁王をとって給料を上げてもらうなんてまだちっちゃい。
優勝して、盗塁王もとる。でっかい目標を掲げたとき、男の瞳はキラキラ輝いた。

「もちろんきみは、そんなことは分かっていたというかもしれない。おそらく分かっていたと思う。しかしきみはそうしてこなかった。なぜだ? たぶんいままでのエンゼルスでは、きみがそうすることによって獲得できる利益があまりにも少なかったからだ。誰もライトへ流そうなどと思わなかった。敵がどういう守備体形をとっているか観察しようともしなかった。きっとそうだ。だからきみは自分だけがそうするのはバカげていると思うようになった」
高原はついに驚きの表情を浮かべ、それからありありと興奮しているのが分かる声で言った。
「これからはそうじゃなくなるというんですか!」
「するのさ、何としてでも」
広岡は烈しく高原の顔を見すえた。
「そうしなければいつまでたっても優勝を争えるチームにはなれん」
「優勝?優勝ですって!」
「野球はつねに優勝するためにやるんだよ」
「そういう野球ができるんだったら――」
高原はゴクリと唾をのみこみ、呼吸を整えた。
「ぼくは盗塁王なんかどうでもいい」
「冗談じゃないよ」
広岡は厳しい声を出した。
「タイトルは野球選手の勲章だってことを忘れるな。絶対にものにするんだ。そしてみんなに教えてやってくれ。チームプレーをしながらでもタイトルはとれるんだと」
高原は体いっぱいに膨れあがった圧倒的なよろこびをもう隠そうともしなかった。その瞳はキラキラと輝き、テーブルにのせた両の拳は感動で静かに震えていた。希望と歓喜にこれほど見事に包まれた、これほど素晴らしい野球選手の顔を、広岡はかつて見たことがなかった。
このくだりはこの小説のなかで私が二番目に好きなところである。盗塁王をとって給料をあげてもらうんだという考えが、プロは金のために働くということなら、このくだりは、プロは自らの誇りのために働くということの描写である。
広岡のチーム改造はほぼ成功し、エンゼルスは首位争いをするようになる。だが高原の負傷欠場をきっかけに不振の波にのみこまれ、選手たちはまたも「サインに縛られて自由に野球ができない」と不満を持つようになる。
どうやら軽い練習ができる程度に回復した高原は、チームの不振を自分の欠場のせいだと考え、一人苦しみながら妻にチームメ―トの不満を話す。いろいろ話しあったあと妻がこんなことを言い出す。
「ねえあなた」
高原は妻のほうを見た。彼女は瞳を輝かせていた。
「わたしとあなたは全然別の人間でしょ」
「そうだよ、まちがいない」
「それなのにわたしは、あなたがいつも何をしたいのかよく分かるわ。あなたが何もいわないときでもよ。あなたはどう? わたしをそんなふうに分かるときがあなたにもあると思うんだけど」
「あるとも、しばしばあるよ」
「そういうとき、あなたはわたしのために感じたことを何でもやってくれるわね」
「たいていの場合はね」
「そういうとき、あなたはわたしに縛られていると思っているのかしら?」
「ちょっと待て。おれたちは夫婦だが、おれと監督は夫婦じゃないぞ」
「同じよ。まったく同じだわ」
「じゃあ、お前のことを考えるみたいに監督のことも考えろってのか?」
「そうよ。でなければ、あなたが監督になるのよ。バッターボックスの中で、センターの守備位置で。そうよ。サインを待ってるから縛られているなんて考えるのよ。待たなければいいんだわ。サインが出たときは、すでにあなたの心の中では準備ができているわけよ」
「それは理想だよ。しかもあまりにも高すぎる理想だ」

つづく

月刊『自己表現』1982年9月号から原文のまま

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