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プロとアマチュアの違いは何か…。 自分の仕事に誇りを持ち、より充実した生活を送るためのヒントが満載。きっと誰もが今からでも変われます!本当の「自分」を発見し、マンネリズムから脱出しよう。 1982年(昭和57年)から1984年(昭和59年)までに連載された、芸術生活社発行『自己表現』の「プロフェッショナル研究」を原文のままお届けします。

「陶酔して行える者が、その道の奥義をつかみとる①」プロフェッショナル研究 Chapter5-1

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この最中に死ねれば本望。プロの仕事は、プロセスに熱中と陶酔がある。
ラフプレーにも正攻法で対抗せよ。プロは勝負師であると同時に芸術家でもあるのだ。

読者諸氏の中で、ラッセル・ブラッドンという名の人を御存知の方があるだろうか。
いや別に知らないからと言って恥じる必要は全然ない。この人は先日私が読んだ「ウィンブルドン」という小説の作者だというだけで、文学史に残るかどうかは今後の活動が決めるという程度の人である。まあもう少し重要な人や有名な人についても、知らないことを恥じることはない。知っている人にしてもたいていの場合は、君より先に本を読んだだけで、努力の結果発見したり発明したというわけじゃない。私も学生のころある劇団に入ってみて、先輩の団員が演劇の専門用語をよく知っているし、重要な人物について詳しいことに驚異と脅威を感じたが、そのことを相談したあるPLの先生が「知識があると言ってもそれは要するに、君より先に本を読んでいるというだけで大したことはない。問題は、その知識をいかに生かし、良いことをするかすぐれたものを作り出すかにある」と言ってくれて安心した経験がある。この稿の読者諸氏の中にも若いころの私みたいな人がいるかもしれないから、御参考までに言っておく。
ラッセル・ブラッドン氏についても、私が皆さんより早く「ウィンブルドン」を読んだから知っているだけで、これを知っていることが、どれだけ私を偉く見せるかというと、全然関係ない。筆者は暇のある人間だという証拠にしかならぬかもしれない。
それにしても「ウィンブルドン」は面白い小説である。ウィンブルドンというのは全英テニス選手権大会の開かれる場所で、そこのコートは、年一回のこの大会にだけ用いられ、それ以外の期間は休ませてある、素晴らしい芝生のコートである。イギリスが全世界にひろがる大英帝国であったころは、全英選手権大会はすなわち世界選手権大会であったから、世界最高のプレーを展開する場として、このコートが作られたのだろう。
小説の中で、主人公のツアラプキンと親友でライバルのキングが決勝戦に出場する日の朝、スタンドからそのコートを見に行く。(以下、新潮文庫『ウィンブルドン』ラッセル・ブラッドン著、池央耿訳から引用)
――通路から一つ中に入った席に腰を降ろして、ツアラプキンはコートを眺めた。キングはゆっくり歩いてスタンドを登り、彼の隣に坐った。
「世界一劇的なコートだよ」
ツアラプキンは粛然として言った。彼は客のいないスタンドを見渡した。屋根に結ばれた十二辺形のスタンドの青みがかった斜面はエメラルド色のコートに向かってすりばち状に傾(なだ)れ落ちていた。
「イギリス人は」彼は低く呟いた。「はじめからこういう雰囲気を計算していたと思う?」
「ああ、そうだろうな」
ツアラプキンは今一度心憎いまで整然と対称形に作られたコートを眺めやった。
「イギリス人にこれだけのことができるなら、オーストラリア人にもできたっていいはずじゃないか」
「ホワイト・シティやクーヨンのコートだって悪くないぞ。そりゃまあ、ここほどしっとりと落ち着いた感じはないかもしれないけど……」
「競馬場のパドックと大差ないよ」
ツアラプキンはうなずいた。
「でも、ここはまさに劇場だよ」――
歴史と数々の名選手のあこがれが積み重なってできあがったウィンブルドンのセンターコート。この小説はそこを舞台にくりひろげられるテニス小説であり、青春小説であり、すごいサスペンス小説である。

つづく

月刊『自己表現』1982年10月号から原文のまま

 

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