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プロとアマチュアの違いは何か…。 自分の仕事に誇りを持ち、より充実した生活を送るためのヒントが満載。きっと誰もが今からでも変われます!本当の「自分」を発見し、マンネリズムから脱出しよう。 1982年(昭和57年)から1984年(昭和59年)までに連載された、芸術生活社発行『自己表現』の「プロフェッショナル研究」を原文のままお届けします。

「自分の仕事は、自分のすべてを投入した作品でありたいⅢ」プロフェッショナル研究 Chapter10-3

ビジネス
10-3

「パズル」が上演中止になった。損害も悪評も恨みも一身に負った作者の井上ひさし氏の申し入れで、前代未聞の事件が起きた。

問題の作品は「パズル」という題名で、人気作家井上ひさし氏が書く、初の本格現代推理劇ということで、前評判も高く、前売券が七千枚も売れていたという。
人気スターの佐藤慶、木の実ナナ、高橋長英ら出演者は昨年末からけいこに入っていたということだが、台本もできてないのにどうやってけいこをしていたのか、こっちのほうがミステリーだが、とにかく上演は全面的に中止ということになったそうな。
『切符の払い戻し、劇場費の欠損、出演料補償や初公演のあと一ヵ月間の地方公演に対する補償などから推定損害額は四千万円。当座の必要補償額だけでも約二千五百万円にのぼると見られている。
井上氏は「この作品は、われながら失敗作。家をたたき売ってでも償いたい」とまで語っており、千葉県市川市の自宅を抵当に入れ、当座必要分の二千五百万円を捻出する考え。演劇界でも前代未聞の上演中止事件となってしまった』
― 一月十日・スポーツニッポン ―
この事件の第一報を聞いたとき、私の頭に反射的に浮かんできたのは、昔々陶工柿右衛門が、気にいらないできの作品を全部叩き割って、貧窮の中で自分の求める色をつくり出そうとしたという話だった。
「柿右衛門は馬鹿なヤツだ。自分では気に入らなくとも、他の者がみればけっこう喜ぶものもあったことだろうに。そんなのをいくつか売って金をつくり、それで自分の求めるものをつくれば、それほど苦労することもなかったはずだ」
こんな批判を聞いたことがある。
でも、そいつは真のプロフェッショナルの心を知らぬ言葉である。自分が死んでも作品は残る。「これが柿右衛門の作品か」と、そういう物で評価されるのはたまらないという気持ち。
プロフェッショナルとして、芸術家として、自分の誇りが許さないこの気持ちを理解しなければならない。その誇りを守るためなら貧窮することもまた良しなのである。
井上ひさし氏の今回のこともそうだ。これは全く井上氏の責任であるから、少なくとも経済的な損害は氏が一人で弁済しなければなるまい。金だけでは済まない。「あいつは本番に間に合うような台本を書けなかった男」という評価、舞台を楽しみにしていたファンや、満員の観客相手に大いに儲けようと思っていた売店のおばさんの恨みも甘んじて受けねばならない。
たとえ駄作でも百八十枚書けていたのだから、渡しておきさえすればそういうことは無くて済んだのだから。
でも彼は、この戯曲は破棄したいと言って、損害も悪評も一身に引き受ける態度を見せた。自分の気に染まぬ作品を公表したくなかったからである。見上げたプロフェッショナル魂と言うべきである。
だが誤解のないように言っておくが、これは井上ひさし氏ほどの人だからできたことだ。
美が美であり続けるためには力が必要である、という原則がある。
井上ひさし氏のプロフェッショナル魂を美しいとして、体操選手の美しいフォームがどれだけの力と努力に支えられているかを考えてみてほしい。誇りを持つにはその誇りを支えるだけの力が必要だ。
スター歌手がのどの具合が悪いと言ってコンサートをキャンセルしても、損害を弁償すれば済むかもしれない。だが無名のコーラスガールがそんなことをすれば、次からは使ってもらえなくなるだけである。
どうも働く気になれないからと言って勤めを休む会社員は、クビになるだけである。プロフェッショナルには誇りが必要であり、誇りを持ち続けるには実力という支えが必要なのである。

月刊『自己表現』1983年3.4月合併号から原文のまま

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