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コラム
プロとアマチュアの違いは何か…。 自分の仕事に誇りを持ち、より充実した生活を送るためのヒントが満載。きっと誰もが今からでも変われます!本当の「自分」を発見し、マンネリズムから脱出しよう。 1982年(昭和57年)から1984年(昭和59年)までに連載された、芸術生活社発行『自己表現』の「プロフェッショナル研究」を原文のままお届けします。
「五月病がなんだ。スランプがなんだ。」プロフェッショナル研究 Chapter12-1
スランプから抜け出す道は、気合いを入れ、緊張感を自らつくり出すこと。
樋口久子、通称チャコ―
日本女子プロゴルフ界に並ぶ者なき大スターである。
長い間日本の女子プロナンバーワンの実力者でもあったし、
段違いのレベルだと思われたアメリカのトーナメントで優勝したこともあり、
日本のチャコから世界のチャコへ飛躍しそうな感じさえある人だった。
そのチャコが一昨年あたりから少々おかしくなった。
それまでならどんな大会に出ても優勝候補だったし、
事実優勝もしていたチャコが、さっぱり勝てなくなったのだ。
原因はいろいろ言われている。
結婚して子どもができそうになり、
いわゆる産休をとっている間に練習不足で打球が飛ばなくなったとか、
年齢的なおとろえだとか、
外国の強い選手が日本の大会に出るようになって、チャコは勝てないとか、
女子プロのレベルアップの余波だとか、
言う方は勝手だから何とでも言える。
とにかくそれまで五十九回の優勝、
これはいろんな大会が増えた現在でも、
なかなか破れるものじゃない記録だが、
一年に四回か五回ぐらいしか女子プロの大会がない時代からの積み重ねだから、
単なる数字以上の意味を持つ記録である。
何しろ、少なくとも毎年あらゆる大会に勝って十年ぐらいかかる記録、
つまり、それだけ長い間第一人者として君臨していた証明なのだから。
それが、チャコ六十勝成るか、とさわがれだしてから、
さっぱり優勝の声が聞かれなくなった。
二位とか三位とかになって、惜しいところで優勝を逃すこともあったが、
多くは第一日第二日ぐらいのところでスコアを崩し、
下位に低迷したまま終わるという形であり、
「もうこれで樋口もおしまいかな」
と言う人もあるほどだった。
そりゃ六十勝成るかという声のプレッシャーもあったと思うが、
どうもそれだけじゃなく、
チャコ自身不調を自覚しているようなところもあった。
こういう状態をスランプと言う。
言っておくけどスランプというのは、
ふつうだったらかなり良い成績をあげる実力の持ち主にあるものであって、
はじめから大して実績もなく、努力もしない人が不成績なのは、
要するに実力がないので、スランプとは言わない。
プロ野球で言えば、掛布や門田にはスランプがあるかもしれぬが、
山倉や岡田(?)が打てないのはスランプでなく実力がないのである。
スランプになったときプロフェッショナルと
言うにふさわしい人間はどうするか。
昨年秋、中日ドラゴンズと巨人とが激しく優勝を争っていたころのことだ。
中日がある時期負けがこみはじめ、チームの内部に不満がくすぶりはじめた。
監督の作戦がおかしいとか、
あいつばかり大事にされてるが役に立ってないじゃないかとか、
おきまりの内紛だ。
そのとき、今評論家になっている星野仙一投手が
選手を集めてこう言ったそうだ。
「この前、俺が投げまくって優勝したとき、
俺はこの分ならまだ二、三回は優勝できるなと思って、
気楽に考えていた。ところがそれから一回も優勝できずに
今年になっちまった。
お前たちも今年優勝を逃がしたら、
また十年もチャンスがないかもしれないんだぞ。
それを考えたら文句なんか言うな。
第一、お前たちは試合に出してもらってるじゃないか。
俺は投手なのに投げさせてもらえない。
その俺が文句を言ってないんだから、お前たちも言うな。
今年がたった一回の優勝のチャンスなんだ」と。
星野投手のこの説得で中日はまたチーム一丸となり、
最終試合で優勝するという劇的なペナントレースになったのだ。
つづく
月刊『自己表現』1983年6月号から原文のまま
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