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プロとアマチュアの違いは何か…。 自分の仕事に誇りを持ち、より充実した生活を送るためのヒントが満載。きっと誰もが今からでも変われます!本当の「自分」を発見し、マンネリズムから脱出しよう。 1982年(昭和57年)から1984年(昭和59年)までに連載された、芸術生活社発行『自己表現』の「プロフェッショナル研究」を原文のままお届けします。

「透視する眼力を養え」プロフェッショナル研究 Chapter20-2

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無味乾燥な数字を克明に調べてひとつのストーリーを構築する、その技や天晴。
だが、もっとすごいのは、そこに限りない男のロマンを描き出そうという発想だ。

本誌(月刊・自己表現)には朝日放送の名アナウンサー
植草貞夫氏の名文章がのっていて、
それは大部分が野球の話である。
素人の井上まで野球の話をすることはない、
そのぐらいのことはわかっている。
この文章を引用したのはこれにプロフェッショナルを感じたからである。
つまり私が真のプロフェショナルとして今月拍手を送りたいのは、
この文章を書いた近藤唯之氏なのだ。

『比較野球選手論』の中に登場する選手の話から
プロフェッショナルの名に価する人を選ぶとすれば、
あの本を全部引用したくなる。
そのくらいここに登場する男たちは魅力がある。
だが、それではまるで近藤氏に書いてもらうようなものではないか。
だからそちらのほうは、買って読む人に読んでもらって、
私自身は近藤氏について書きたい。

諸君、初めに近藤氏のあげた数字をもう一回読みなおしてほしい。
広岡の出場試合数と失策数、5・3試合に一個だけなんて計算、
2試合連続だの中一試合だのという退屈な調査。
あんな数字から、名人肌吉田義男と理性派広岡達朗という
対照的な名遊撃手二人の姿を引っぱり出すなんて芸当が、
近藤唯之氏以外の誰にできるだろうか。

言われてみれば納得できるし、
私にとっては広岡も吉田もプレーを見たことのある選手だから、
イメージも合う。だから近藤氏の言ってることは
当っているんだろうとは思う。
だが、もちろん私という人間が数字の嫌いな性分で、
数字なんて無味乾燥なものと思いこんでいるせいもあろうが、
数字からロマンを引き出すなんて考えつきもしない。

プロフェッショナルの発想というか、
眼のつけどころというか、
さすがに違うもんだと唸ったのである。
数字からロマンを引き出すと言えば、
ディック・フランシスの
競馬スリラー『障害』もそんな話だった。
主人公は会計士なんだが、会計士なんて仕事は退屈で、
無味乾燥な仕事だと思われている。

私なら頼まれたってやりたくない仕事だ。
ところが、この小説によるとまるで違うのである。
AがBという建築士に設計料を払う。
この会計士はAもBも受け持っているから両方で
その取り引きをチェックする。

そんなことをしているうちに、
AからBに払った金が十万なのに、
Bの入金は七万しかないなんてことを見つける。
どちらかの社員が中間でごまかしているのである。
こんなふうに数字を神経をつかってよく調べれば、
人間という動物がどんな機会をとらえて
どんな悪事を企てているかよくわかる、というんだな。

このスリラーは、そうやって誰も知らないだろうと
思って悪事を働いている連中を何人かつかまえたあと、
自分の一番信頼している人が、
大がかりにそういうことをしていることを見つけ、
危険な目に会いながら正義を貫く話で、
これは掛け値なしに面白い小説だった。

それにしても、あの1から0までの数字の並びの中に
ロマンがあるなんて、読んだあとになった今でも信じにくい。

人と同じことを考え、人と同じことをやっていたのでは、
うまく行っても人と同じ程度のことにしかならない。
プロフェショナルは、人と同じことをやりながら、
そこに何かひとつでも人よりすぐれたことが
できないかを考え、自分の眼を磨くのだ。

近藤唯之氏が野球評論を書くようになったのは
いつごろからであろうか、
そうなる前は何をしておられたのだろうか。

私はかなり熱心な野球ファンだが、
近藤唯之という選手が活躍するのを見た記憶はない。
近藤氏が一流になったのはスターとして名前があったからではなく、
評論の面白さが認められたからであろう。

 

つづく

月刊『自己表現』1984年2月号から原文のまま

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