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コラム
思春期編その20「ご褒美に必須の努力をたたえる気持ち」
小さい頃は、病気をしないよう、ケガをしないよう、すくすくと成長することを一番に望んでいたのに、中学、高校になると、親は勉強や成績のことがとても気になってきます。
そこで、「次のテストで平均◯点以上取ったら、◯◯を買ってあげる」などと、子供にとって誘惑となるエサをぶら下げて、〝馬にニンジン〟方式で頑張らせようとしたくなります。
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私は、このやり方をお勧めしません。〝モノが欲しいから頑張る〟のなら〝何ももらえないならしない子〟になりかねないからです。モノで釣ると自発的な意欲が育ちにくくなります。
例えば「今回のテスト、すごく頑張ったね。週末に外にご飯食べに行こう! 何でも好きなもの頼んでいいよ」と言うのはどうでしょう。これなら頑張った子供をたたえ、その頑張りを喜ぶ親の気持ちも現れています。
何かをご褒美として与えるのなら、よく夫婦で相談し合った上で、好きな食事や遊びに行くなど、〈日頃そのくらいのことは子供にしてあげる〉と思える程度のことを、褒め言葉と子供をたたえる気持ちを添えて行うことが、子供の心を育てることにつながるのです。
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モノが欲しいからではなく、褒められたうれしさを知っているからこそ、やる気が出て頑張れるようになります。〈高校生になれば、そんな程度のことでは喜ばない〉と思える子供でも、例えば、親子でのウインドーショッピングや映画鑑賞、スイーツのお取り寄せ、好きなスポーツ観戦など、何か引かれるご褒美はあるはずです。
「次のテストは頑張るから、今、◯◯を買って」という子供の話には、乗らない方がいいでしょう。子供自身は、うそをつく気もなく、〈本当に頑張ろう〉と思っているのでしょうが、実態のない状態でモノを手に入れることができた後は、〈努力しよう〉という気持ちが自然と低下していくものです。
子供の「今しかないから」の言葉に乗せられそうになったら、先に買っておいてテストが終わってから、たたえながら渡すといいでしょう。ご褒美というのは、頑張った後にもらうものですから。
『芸生新聞』2023年6月5日付掲載
臨床心理士の考える子育てのヒント
1998年から中学校のスクールカウンセラーを始め、現在、兵庫県内の小・中・高で生徒、教師、親の相談を受けている。こころの悩み相談「コミュニケーションズサポート」代表。PL学園高等学校卒業。
川嵜由起美(かわさきゆきみ)臨床心理士・公認心理師